自由間接話法とは何か?—かたちと機能、和訳からの観点

〜Step 2 “意識”を伝える場合。

このあたりを含めて見ていくために、またひとつ、ばかっぽい例文をw
ただし今回は、問題の最後の一文を、いきなり自由間接話法(英訳!)でお届けします;)

[例文2]
彼女からの長い手紙を読み終えると、彼は一人、静かに涙を流した。
He loved her.

…如何でしょう?(笑)
彼女からの長い手紙を読み終え、彼はしみじみと、自分が彼女を愛していることに気づいた、というわけです;)めでたし、めでたし、です(笑)
この最後の一文は、「彼」の発言というよりも、彼の意識、あるいは感情を伝えている、と考えるのが自然です。彼は一人で手紙を読んでいたのだから、です。…このように、自由間接話法の理解には、コンテクストが重要です;)
(? 独りごとかもしれないじゃない、って? …うーん、鋭いです。その指摘から、非常に面白い話がいろいろ、いろいろできるのですが…ここではとりあえず、深く立ち入りません;) *ここ、さらに追記2も参照のこと;)
…それと、あともうひとつよけいなことを念のためお断りしておきますが;)めでたし、めでたし、とさっきから書いてますが、これはなにもこの文がたとえば小説全巻の終わり、という意味ではないです。そういうことで、ひとつ、お願いします;)

さて、この[例文2]の最後の一文を、逆に直接話法と同じかたちで表現しますと、

He thought, “I love her.”

間接話法と同じかたちだと、

He thought that he loved her.

となります。thought(think)をsay to oneselfにすると、さらにこれが直接話法・間接話法と同じかたちだ、というのが判りやすいかもしれません;)

He said to himself, “I love her.” ←直接話法と同じかたち
He said to himself that he loved her. ←間接話法と同じかたち

say to oneselfは和訳においては、「思う」と訳してしまってもおおむね差し支えないことが多いでしょう;)
で、このひとつ目の、直接話法と同じかたちの文(He said to himself, “I love her.”)を日本語に訳すとすると、
「僕は彼女を愛してる」と彼は思った。

ふたつ目、間接話法のかたちの文(He said to himself that he loved her.)を日本語に訳すとすると、
彼は、彼女を愛している、と思った。
でいいと思います。

いいのですが、でもこのふたつ目の英語と和訳、よく見てください(笑)
英語ではlovedと過去形になっているものが、日本語では「愛している」と現在形になっていますね…。
もしこの「愛している」を
彼は、彼女を愛していた、と思った。
と過去形に訳してしまうと意味が変わってしまいます。
つまり、この訳をさらにもう一度英語に訳すと(笑)
フランス語でいう大過去、英語でいう過去完了になってしまうでしょう:
He said to himself that he had loved her.
彼は彼女を過去の時点において愛していたとその時思った、という意味になります。
(うーむ、もしかして、過去完了は、日本の中学校英語では出てきませんでしたか? ちょっとそんな気もしてきましたが…:P )

しかし例文、物語の中で、手紙を読み終えた彼が、その時彼女を愛している、と思ったのですから、日本語では「彼は彼女を愛してると思った」でなくてはなりません(笑)日本語としては、「愛してる」は現在形、「思った」は過去形と、ふたつの時間をとらなくてはなりません…。

理屈で説明しようとすると、なんだかややこしいのですが(笑)これは先にStep 1で見た、
フランス語の間接話法と自由間接話法では時制の一致が必要という問題で、
いい換えれば、フランス語では一文の中の時間的な視点はひとつに統一する必要があります。
逆にいうと、日本語は、一文の中で複数の時間的視点をとれる、ということになります。
これはべつに特殊なことではなく、韓国語だって日本語と同様、一文の中で複数の時間的視点をとることができます。

しかしこの日本語とフランス語との違いが、自由間接話法の日本語への置き換え・翻訳を困難なものにしているキー・ポイントだ、ということもできるでしょう。
要するに、この違い、つまり時制の一致こそが、間接話法・自由間接話法のひとつの根幹をかたち(フォーム)の上で成している。だからふたつの時間的視点をとることがむしろ自然な日本語で、これを表現することは難しい、ということもできるわけです。。。;)
…この自由間接話法の和訳・日本語へ訳出する場合の困難を具体的に見ていくことで、さらにこの話法を検討してみたいと思います。

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