自由間接話法とは何か?—かたちと機能、和訳からの観点

〜Step 1 標準的な理解:“発話”を伝える場合。

まずフランスの現在の学校文法では、自由間接話法、という呼称からも想像されるとおり、これを一種の間接話法、と捉え、
直接話法→間接話法→自由間接話法
というかたちで教えます。
…この理解は、ノン・コミュニケイション理論の立場から見ると、完全に間違っている、ということになります(笑)
また、これはコミュニケイション・モデルに立つ人も認めてはいることですが、自由間接話法では、そもそも発話・発言だけでなく、意識や思考、あるいは内声を伝えることができます。
しかしここでは、一旦、現在の標準的な立場(コミュニケイション・モデル)に従って、直接話法・間接話法との比較を通じ、まずもっぱら発話・発言を伝える話法として、自由間接話法という話法のかたちを説明します;)

最初に必要なのは、コンテクストです。自由間接話法を自由間接話法だと認識するためには、コンテクストが必要です。(この点、↓↓に訂正/修正があります!)
…徐々に「なるほどなぁ…」と思っていただけるのではないか、と希望しておりますが(笑)実はこの「コンテクストが必要」ということ自体も、非常にキー・ポイントではないか、と思います;)
そこで、例文です:

[例文1]
「君は僕を愛しているの?」と彼は彼女に訊いた。
彼女はじっと彼の目を見つめた。
「私はあなたを愛しているわ」

…めでたしめでたし(笑)…あのねぇ、ばかっぽいですけど、これはあくまで例文ですから(笑)
さて、この例文の最後の彼女のセリフ(発話・発言)。英語にすると:
“I love you.”
です;)

これを直接話法にしてみましょう。
She said, “I love you.”
…でよかったでしょうか?ちょっと英語を忘れておりますが(笑)
和訳するなら:
「私はあなたを愛しているわ」と彼女はいった。
これで中学校の英語の試験なら〇でしょう;)

では、これを間接話法にしてみましょう:
She said that she loved him.
こうなります。少なくともフランス語文法では、これが正解です。
(例文、英語ですが…;)

ポイントは、人称代名詞や時制の一致。Iがsheになりyouがhimになる。
またloveが過去形lovedになる、ということですね;)

えー。アメリカ人は She said she loves him.ともいうよ、という声もあるかもしれませんが(笑)これは、彼女は現在も彼を愛している、という認識があるから現在形を維持しているのだ、と考えてみましょう;)
また、ここでは英訳の例文を使いながらも、英語の描出話法ではなく、主にフランス語の自由間接話法を検証しようとしてるのだ、ということもご念頭に、ひとつ、よろしくお願いいたします;)

さて、いよいよお待ちかねの(笑)自由間接話法です。
感じが出ないので、前の文から英語にしますね。

She looked into his eyes.
She loved him.

こうなります。これが自由間接話法(または英語の描出話法)です。

えーっ! それだけ!?

と思うかもしれませんね…。はい、それだけです(笑)

…っていうか、それってただの地の文、っていうか、所謂『三人称』の小説のフツーのナラションじゃん。。。

と思ったあなた。
もしあなたがこれまで文学テクストの分析にまったく関心がなかったとしたら…あなたはナラション分析の天才、かもしれません!(笑)
まさにそうなのです。
だからこそ「自由間接話法を認識するためにはコンテクストが必要」なんですね;)

ともかくかたちの上では、間接話法、
She said that she loved him.
からShe said thatを省いたもの、
She loved him.
これが自由間接話法です。
間接話法のShe said thatの部分がない・そこから自由、という意味でも、自由間接話法、なわけです(笑)
従って、標準的なフランス語文法では、教授法としての便宜からも、直接話法・間接話法・自由間接話法を並べて教え、自由間接話法を間接話法から派生したもの、と理解させるわけです。
(…で、ここにノン・コミュニケイション理論は真っ向から反対するわけです;)

ところで、この話法を使うことで、どういう文学的な自由が得られるのでしょうか。
僕のばかみたいな例文ではまったく判らないと思いますが(笑)
先に見た、自由間接話法を認識するためにはコンテクストが必要であること、あるいは「フツーの『三人称』の小説のナラション」と同じ、ということ、それ自体がひとつの効果、なわけです;)

“Do you love me?” he asked her.
She looked into his eyes.
She loved him.

この文章を読んで、
愛しているか、と彼に訊ねられた彼女が、
じっと彼の目を見つめて、She loved him.=彼女は彼を愛してた。
…ん?
…あ、そうか、彼女が彼に「愛してるわ」と答えたんだな、自由間接話法、ね…。うーん、めでたしめでたし…
と理解するのに、直接話法と比べると、微妙な遅れがありますね(笑)
…つまり所謂『地の文』とほとんど切れ目を感じさせない、それほどまでにこの話法は『地の文』にとけ込んでしまう…ということです;)

次にもし例文が、

彼女はじっと彼の目を見つめた。
「ええ… 私、あなたを愛してるわ!!」と彼女はいった。

だったとしましょう。これを直接話法におくなら、
She said, “Yes… I love you!!”
で問題ありません。でもフランス語の間接話法だと、じつは yes… や !! は使えないんです;)
でも自由間接話法なら、(例文、引き続き英訳でお届けしますが;)
She looked into his eyes.
Yes… She loved him!!
と、「Yes…」も「!!」も使って、間接話法よりより自由に、より生き生きと書くことができる、という利点があります;)
このように、自由間接話法は、直接話法とも間接話法とも異なる、独自の表現を可能にし、結果、独自の効果を生むのです。

訂正:…ということは「自由間接話法を見分けるためにはコンテクストが必要」と上に書きましたが、一概にそうともいえない、ということになりますね。訂正します;)yes… や !! 、間投詞や感嘆表現、そしてdeixis:私・いま・ここ、等 が過去形(フランス語ではとくに半過去)と組み合わされている場合、コンテクストがなくとも「自由間接話法だ!」と判ります!;)

さらに追記1
フランス語版で、走り読みしていただけのヴァインリッヒのテクスト言語学を、その後がつんと勉強し直しまして(笑)ドイツ語の場合(体験話法)についても幾分理解を深めることができましたが;)
ヴァインリヒの定義する「伝達動詞」の概念は、コンテクスト、という以上にクリアな指標になると思われますので、ご参考までにこの点、追記しておきます:) →さらに追記2

また、この「Yes…」と「!!」を使った場合、
Yes… She loved him!!
ここでもloveはlovedと過去形になり、間接話法にみられる時制の一致と同じ現象が起きていますね;)
フランス語では間接話法に必ず時制の一致が必要なように、もしこの『時制の一致』がなかったら、それは自由間接話法ではありません。
(もしloveが過去形になっていなかったら…あとで見るよう、それは直接話法…あるいはさらに、たんに「セリフ」から「」を外したもの:Pになる、と思います;)

そして過去形というのは物語のナラションの基本になる時制なので、だから一見「フツーのナラション」や『地の文』の一部に見える、それが自由間接話法だと気づくのに微妙な遅れがある…つまりそのぶんナラションにとけ込んでいる、ということになるわけです;)

さて、この自由間接話法のかたち(フォーム)をしっかり頭においていただいたところで、次に、です;)

最初に触れたとおり、自由間接話法では、発言・発話(所謂セリフ)だけでなく考えや意識、あるいは内声も伝えることができます。
…というか、プラクティカルには、もちろん直接話法や間接話法と同じかたちでも、意識や思考を伝えることができます。これを次にみます。

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