モディアノ小説選集 Quarto版、登場。

Quarto Modiano Romansソフトカバーでありながら、薄く斤量の小さい白い紙で、大ページ数をも束ね、作家、人文科学者の全作品、または主要作品を纏める、というコンセプトのQuartoコレクション。プレイヤード叢書とはまた違う、ガリマール社の21世紀版新全集シリーズ、といってもいいかもしれません。

…僕も広辞苑より厚いといわれる(笑)『失われた時を求めて』全1巻をQuartoで買いました。コストパフォーマンスと文字の大きさなどから、作品を読むこと自体が目的なら、ほんとに読む気なら(笑)Quarto、という考え方もあるかもしれません;)

このQuartoにモディアノ小説選集が加わりました。
表4によれば;)収録作品は:

Villa triste – Livret de famille – Rue des boutiques obscures – Remise de peine – Chien de printemps – Dora Bruder – Accident nocturne – Un pedigree – Dans le café de la jeunesse perdue – L’horizon

以上10作品。
ぱっと見て咄嗟に思ったことは、これは意外と日本人読者には素晴らしいラインナップではないか、ということでした。10作品のうち、僕の訳した『失われた時のカフェで』を含め、6作品が既に邦訳されています。
Accident nocturneL’horizonについては←各リンクより当サイトの記事もご覧下さい。

翻訳者にとっては手強いモディアノのフランス語ですが、大意を取るだけなら、これは非常に平易である、ともいえます。6冊の邦訳の原書がコンパクトに纏まったこの1冊は、モディアノ原文を読みながらフランス語をマスターしていきたい、という日本の読者にとって、素晴らしいコーパス、となるでしょう。。

…一見平易な何ということもない文章を読むうちに、文学センスのある人には、いや、ちょっと待て、このことば・この表現(例えば)、ふだん何気なく使ってたけど、実は全然違う意味があるのでは。。などと思えてくるのが、モディアノの真骨頂、なわけです;)

モディアノ作品のなかで、あるいはいまだにいちばん愛されているデビュー作、そして最も高く評価された90年代の傑作、Vesriaire de l’enfanceVoyage de noces(この2作についてはこちらの記事もご参照下さい)は、日本語には翻訳されていません。それが問題だ、と僕は思うのですが、このQuartoにも巧い工合に(笑)収録されていません。

これはどういうことなのか、というと、表4にモディアノ本人のことばがあります。曰く、本書に収められた「小説」は、ここに出てこない作品に対しても脊柱のようなものである。ばらばらに書かれたものであるが、実は同じ人々、同じ場所、同じことばを書いてきた…、ということですから、そのうちの6作を訳してきた日本の訳者たちは、ある意味、よくやってきた、ということがいえるかもしれません。…あるいは、見事にモディアノの術中に落ちている、ともいえるかもしれません(笑)

…表4のモディアノのことばをさらに読み進むと、本書の収録作品が他作品に対して脊柱であり、ある種の一貫性がある、というのはつまり、この10作がみな、とりわけ自伝的な作品である、ということのようです。
(モディアノはフランスの作家としては珍しく複数の版元から作品を出しており、他社現行ペイパーバック収録3作品中2作をガリマール社が回収した、ということもこのラインナップから結果的にはいえる、かもしれません…;)

全作品や主要作品が網羅的に、1冊にコンパクトにまとまっており、ばらばらに買うよりはるかに安い、というのがQuartoの魅力ですが、もうひとつ、写真や解題など、エピテクストが収録されている、というのもセールス・ポイントです。
(ただし、これはQuarto全点共通ではなく、↑↑の僕が持っている『失われた時』全1巻には、1枚の写真も収められているものではありませんw)
少なくとも、いつかモディアノがプレイヤード叢書に収録されるまで(収録されるのは確実です;)愛読者・ファンとしてはぜひ手元に置いておきたい…と思われる1冊ではないでしょうか;)

…なお、モディアノ作品は現在アマゾンの電子書籍リーダー、Kindleへの対応も進んでいるみたいです。kindleを持っていない人でも、スマートフォンを持っていれば、無料アプリを使って読むことができる、とのこと。1冊の価格は、紙の本とあまり変わらないようです。amazon.frにて。
ともかく、原文で読みたくても、海外書籍は送料が定価の何倍もする、というのが外国文学ファンの長年の悩みでした。これを解消してしまう、というのが、省スペース以上にkindleの最大の魅力なのではないか、と僕は想像しています。(現時点では、あくまで想像に留まりますが;)
…いま見てみたら、『失われた時』全巻原文は、Kindle版だと、なんと2,16€、300円程度。。。恐らく日本の20世紀文学も、版権が切れていれば、無料か、それに近いかたちで読めるかもしれません。。Kindle、またはスマートフォンのKindle アプリ。試してみるのもいいかもしれませんね。。:)

Modiano-Romans
Quarto版 パトリック・モディアノ小説選集
Patrick Modiano – Romans


Patrick Modianoのページはこちら
2007年、全仏ベストセラー『失われた時のカフェで』をまだ読んでない!という方はこちら… [古書の売買に関しまして]

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