今回の新刊『失われた時のカフェで』には50ページの書き下ろし解説が付いています。力作です(笑)この解説を書くために、結局ずいぶんたくさんモディアノの旧作を買い込んでしまいました。
Twitterのほうには何度か書いてきましたが、それで、せっかくなのでその各書をじっくり読んでみました。ポイントは「この作品を僕は訳せるか、僕が訳すとしたらどうなのか…」(笑)さらにいうなら、「モディアノ翻訳第二作に最適なものは?」…これです。もちろんモディアノに見所のない作品はありませんから、ひとつを選ぶ、というのは難しい。また本国とは違い、まだまだ日本の読者に親しみのないこの巨匠の世界を紹介するには…というようなことも考えます。
というわけで、まず見てみたいのが2003年のAccident nocturne。これは僕がモディアノの翻訳を考えた時点での彼の最新作『失われた時のカフェで』に対して、純然たるフィクション、romanとしては前作、ということになります。じつは『失われた時のカフェで』でなければこちらにするか…と当初から検討した作品でもありました。
さて、僕が訳すとしたら…ですが(笑)訳題は
『ノクターン・アクシデント』
これで決まりです(笑)
次に帯ですが、こんな感じです。
「あなたが思うより、世界はずっとシンプルなのよ」
交通事故、デジャヴ、『僕』を導く謎の犬、きらめく夜のパリ。そして幸福な結末…。
モディアノ・マジックにふたたび身をゆだねて。
…如何でしょう?;)
帯案からも判るとおり、この作品の一番の魅力は、ハッピー・エンディング(笑)
しかし僕が『失われた時のカフェで』を選んだ理由は、といえば…。(もちろん『失われた時のカフェで』のさまざまな魅力をべつにして、という意味ですが)
この作品Accident nocturneは、ナラター(話者)がパリのピラミッド広場で交通事故に遭うところから始まります。そして病院で意識をとり戻し、ベッドの上でエーテルのにおいをかぎながら(笑)夢と現(うつつ)・過去と現在を彷徨います。この縦横無尽なナラションによる行ったり来たりこそがモディアノの醍醐味、じつに見事だしファンにはたまらないところ、なのですが… 長いんです(笑)この長さは、しかも冒頭、ということを考えると、初めてモディアノを読む、という読者にははたしてどうなんだろうか。この魅力を伝えきることができるだろうか…という点が非常に問題だと思ったわけです。
…しかし、魅力的な作品。非常に高度な技術に裏打ちされた作品であることは間違いありません。いつの日か、モディアノの作品をもっと読んでみたい!ぜんぶ読んでみたい!!という読者が日本にも何万人も生まれたら…もちろんぜひとも訳してみたい1作です。