標題の通り、マルセル・プルースト(1871-1922)、今年は生誕150年記念ということで、作曲家の年次ポストはお休みし(?笑)夏休み利用にて関連ポストを作ることにしました;)
というのも、ひとつにはまず、作曲家のアニヴァーサリーではないものの、ぽつぽつ関連ディスクのリリースもあったから。
プルースト作品は、文学のみならず、絵画、演劇、音楽と、それぞれの芸術分野に関する記述に膨大なページ数があてられている。
音楽の場合、重要なモチーフとなっているのが架空の作曲家、ヴァントゥイユの作品で、この作中の架空の音楽作品、その描写を最初に読んだ際には念頭にあるのはドビュッシーか、とも思ったけれど、むしろフォレの音楽が描かれている、というのがひとつの定説となっています。
そこで、まず最初に紹介するこのアルバム:
『プルースト、1907年7月1日のコンサート~フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番、他』テオティム・ラングロワ・ド・スワルテ、タンギ・ド・ヴィリアンクール
もちろん何曲か、ここにもフォレが入ってますが、プレス・リリースによると、このアルバムは、『失われた時を求めて』の執筆を開始する6年前の1907年7月1日にプルースト自身が、リッツ・ホテルで「フィガロ」紙編集者ガストン・カルメット(後に『スワンの家の方へ』も献呈した)のためのディナーを催し、フォレ本人も招いて演奏を依頼していた(結局実現せず)、という演奏会のプログラムを再現したもの、とか。
演奏者の意見でプルーストの希望とはやや異なる曲目になったらしいが、それでもこれから書き始める『失われた時』にインスピレーションを与えたと思われる音楽がしっかりと並んでいます。
ショパンもプルーストには欠かせない作曲家だし、ヴァーグナーは、当時、普仏戦争以降すすんだ、フランスの知識人、文化人のいわば“ヴァーグナー熱”はひとりプルーストにとどまらない、第三共和政の一大文化現象;)
次にこれも同じくプルーストのプレイリスト、というコンセプトで作られたチェロ・アルバム:
『プルーストのサロン音楽~フランク:ソナタ(チェロ版)、フォーレ、サン=サーンス、他』 スティーヴン・イッサーリス、コニー・シー
こちらのプレイリストでちょっと気になるのが、現在とは異なる、初演時のヴァージョンによるサン-サーンスのチェロ・ソナタ。
この作曲家は、前世紀、僕の子ども時代には吉田秀和がほぼ聴く価値なしの0評価を付けてたため、どうも自ずとばかにしてしまう傾向があるのだけれど(笑)
プルーストはややmitigé、相半ばするような評価をしつつも、ヴァントゥイユ音楽のモデルのひとつ、という可能性を示唆しているそう(とラジオ・フランスでいっていた;)
…なるほど、『失われた時』に先立つ「ジャン・サントゥイユ」に出てくる《小楽節》のモチーフは、サン−サーンスのものとされており、1909年「スワン」初稿までそのままだった、ということらしいです。…すみません、「ジャン・サントゥイユ」、読んでないので。タディエがそう書いてました(笑)
だんだん聴いていくと、なかなか奇妙な作曲家だったことが判ってきて、もう少し理解が進むといいような印象にもなってきつつあります;)
…というか、サン-サーンスも没後100年のアニヴァーサリー・イヤーでした(笑)ドビュッシーの際に好評だった、ワーナーから同企画の全集も出るようです!(販売元情報)
しかし、こうして聴いてくると、中でもキラリと光っているのが、アーンの作品では??
1枚目のアルバムの1曲目でもあった«À Chloris»、そして2枚目の1曲目の«Variations chantantes»、どちらもバッハを思わせるコラールから、非常に繊細な美しさと、判りやすいロマンティックな感傷性が、きわきわのところで、切なく踏みとどまっているかのようです;)
『ダイメンションズ』~インナーワールド(パートIII) マルリス・ペーターゼン、 シュテファン・マティアス・レーデマン、 グレゴール・ヒューブナー
ソプラノによる歌唱でその«À Chloris»が入ってる。
ソプラノ・アルマンド(独)、とのことだが、他にもフォレやデュパルクなど、関連あり、のフランスの歌曲(メロディ)も入っています。
次に再び新譜に戻って、
こちらは『新譜早耳#2020』でも紹介した、オルセー=ロワイヨモン・アカデミーがパンデミックにも負けず、例年通り開催した、新進歌手のコンサート、昨年夏の、最新作。
若手らしく張り切った、大ぶりの歌唱だが、安定感にはやや欠ける。。とパスしかかるも、このピアノの間奏を聴いてみて!
うわー、美しいと圧倒されてしまう;) 仮に『新譜早耳#2022』などを作る場合、必ず収録しないわけにはいかない(笑)
こうなると、もう、アーンの独壇場、という感じすらある(笑)
レイナルド・アーンはマスネのシュシュ(お気に入り)として音楽ファンには知られ、そして文学ファンにはなによりプルーストの友人(ボーイフレンド?)として知られている。
何曲か若書きの歌曲を残しているが、そしてどれも美しく、非常に大衆性にも富んではいるが、しかし早熟の天才少年。サロンの寵児としてあたら才能を無駄にして、20過ぎればただの人…。
音楽家としてよりも、マスネやプルーストの人生の登場人物、という印象(個人の印象です;)。
それがここへ来て、大きくその認識が変わってきた。
というのも、アーンの歌劇、オペレッタ? いや、コメディ・ミュージカル?の全貌が徐々に録音で明らかになってきたから。
これがこのポストを作っておこう、と思った第2の理由にもなった。。;)
歌劇『夢の島』全曲 エルヴェ・ニケ&ミュンヘン放送管弦楽団、エレーヌ・ギュメット、シリル・デュボワ、アナイク・モレル
なんと、アーン、作曲当時18歳のオペラ。
ドビュッシストなところもあるが、やはりマスネに近い印象か?? 第2場への前奏曲も素晴らしい。
物語は当時人気の異国情緒への憧憬に溢れた、フレンチ・ポリネジーを舞台とした牧歌的なもので、さて舞台で見るとどうか…とも思うが、とにかくここではエルヴェ・ニケ率いるレコーディング・セッションのレヴェルが高い。
こういうレヴェルで、この忘れられた作品を世に問えた、ということが素晴らしい。
『未だ見ぬ人よ』全曲 サミュエル・ジャン&アヴィニョン=プロヴァンス国立管弦楽団、ヴェロニク・ジャンス、オリヴィア・ドレ、 エレオノール・パンクラツィ、 トマ・ドリエ、他
こちらは筋からいって、典型的な、オペレッタ。
とはつまり、しっちゃかめっちゃの不倫もの(笑)
ラジオ・フランスのDJは、この筋では、ちょと現代では問題があるんじゃないか、とまでいっていた;)
不倫に対して寛容度の高い、フランス人が、そういうのだから、、そこは、推して知るべし。
(といっても、それはみんなが不倫をしている、という意味ではない。人の問題に立ち入らない、ということで、人の失敗に寛容、というのがフランスのいいところだった。少なくとも、テロ前までは。。)
聴いてもらえば音楽も、いかにもオペレッタ、という感じに書かれている(笑)
一方アーンのメロディ(歌曲)に関しても、断片的でなく、全集が登場!
アーン: 歌曲全集 タシス・クリストヤンニス、 ジェフ・コーエン (Piano)
このバリトンによる録音で、アーンのメロディの全貌も明らかになった。
いかにもベル・エポックな、魅力溢れるアーンの世界を4CD分、どっぷり、楽しめる;)
全集としては、さらに渋いが、素晴らしいのが、なんと室内楽全集!
Reynaldo Hahn Quatuor Tchalik: Gabriel Tchalik, Dania Tchalik, Marc Tchalik, Quatuor Tchalik
…これはどうも日本には、フィジカルなディスクとしてはまだ未入荷なのか?
しかし、ストリーミングで普通に楽しめる;)
ドイツとはまた違う、フランスの室内楽の音楽性に惹かれる人は、ぜひ聴いてみてほしい。
いや、プルースト読者として、音楽家というよりもむしろプルーストの関連人物と考えていたアーン。
それが、フランスに引っ越して、ラジオなどで耳にするようになり、ずいぶん美しい、キャッチーな、そしてまたいかにもフランス的なメロディーを書く人だなぁ、と思ったものだが、あの頃とは、何とも隔世の感がある。。(笑)
特に最初に強く印象に残っているのが、多分当時アルバムが出た、カウンター・テナーのジャルスキーのヴァージョンだったが、そのジャルスキーのヴィデオもあったので、クリップしておこう:
Hahn L’heure exquise – Philippe Jaroussky
さらに、各アルバムへここまでリンクを張ってはおいたが、ストリーミング・サーヴィスには契約していないよ、という人もいることだろう…。
そこでこの際、youtubeのプレイリストも、抜粋版だけど作っておいた:
プルーストのプレイリスト Une playlist proustienne à son 150e anniversaire
まずはこちらで当たりをつけて、よさそうなアルバムがあったら、ぜひ全体を。。;)
…というわけで、気づけば、むしろアーン特集になってしまったかも…ですが(笑)
最後に再びプルーストに戻ってみると。。
ヴァントゥイユ作品のモデルになったとも考えられる、フォレの有名なバラードがここまで入っていないのが、やや残念、か。。;)
今回のところはフォレに関して、決して多くは語りませんが(笑)今年はちょーっと忙しくて、まとめられなかった#新譜早耳(笑)
しかしもし1枚(というか1セット)選ぶならこれ。
結局、これが昨年、2020年の新譜では、一番記憶に残ったのではないだろうか。。
サンソン・フランソワ サンソン・フランソワ/コンプリート・レコーディングズ(54CD+DVD)
酒好き、ジャズ好き、煙草好き。現代の規格化された社会にはまず出てこない、最後の無頼派的な天才ピアニストだったサンソン・フランソワ。
その没後50周年を記念するこの54ディスク・コフレ。
コンサートの前は緊張のため、一杯引っ掛けずにはいられなかった、という話もあり、そのため(??)40代で早逝したフランソワが、しかしなんと54枚ものディスクを録音していたことに、まず驚く(笑)
振り返れば、20世紀なんだけど前時代的に強い個性のあるピアニストで、ショパンのノクチュルヌなどは僕もよく聴いた。
いまでも、一番パリの夜らしい——きっとショパンが歩いた頃の、まだ真っ暗だった夜のパリの通りや、セーヌの河岸…などなどが、なんとも浮かんでくるノクチュルヌ、といえば、即座にフランソワの何曲かを挙げたくなる。
それが今回版元がEMIからワーナーに移ったため(??)リマスタリング技術か、録音が格段にクリアになった(…まぁ、ディスクにもよりけりかも、だが・笑)
そこで驚いたのが、ひとつには、フランソワのフォレ!
ショパン以外に、ドビュッシーもラヴェルも聴いてはいたが、フォレについては実は気づいていなかったことに気がついた(笑)
室内楽も含め、2枚分しかないが、特にこのノクチュルヌの4番!
提示部が終わってブレイクした後のファンテジー感からがすごい。浮遊感というか、いまここで手探りに音楽が生まれていく、このスリリングな感覚…。
いやー、EMIの手を離れたからこそ、気づいたことかもしれないが(笑)できれば、もうちょっとフォレも入れておいてほしかった。。;)
Nocturne No. 4 in E-Flat Major, Op. 36
このフランソワの全集には、まだまだ大騒ぎしたい名演、名トラックがあり、
そのへんも含め、今年はちょっともう無理ですが(笑)
できれば#新譜早耳の新版も作成したい、と思ってはいるところ。。ご要望、ご希望などもしあれば、ぜひお教え下さい;)
それではまたしても年1ポスト化しておりますが(笑)
あいにくcovidも進化を遂げ、デルタ株は霧吹きのミストの一粒よりはるかに小さい、ごく微小な空気浮遊物が目に入っただけでもうつる(空気感染)、1,6mのソーシャル・ディスタンシングではまったく近すぎる、アクリルのパーテーションなど役に立たない、といわれています(#CNN小耳)。
どうやら今年の夏休みも自宅でのんびり、が賢明のよう。
こちらのプレイリストなども参考に、どうぞみなさまよい夏を。
Bonnes vacances !