パリで見つけたこの1枚*ディヌ・リパッティ「主よ、人の望みの喜びよ」

Lipatti, "Jesu, Joy of Man's Desiring"フランスでは、7月は1年の終わり。

欧米の年度が秋に始まる、ということは有名ですが、夏に1年が終わる、ということは、実感としてはちょっと判りにくいかもしれません。
でも、ちょうど日本の年末のように、たとえばTVでもレギュラーの番組はおやすみになって、特別番組、今年の総集編とか、今年のTV名場面・珍場面、今年の歌といった年末番組が放送されます。そして番組の最後は、「今年も1年、ありがとうございました。また来年お会いしましょう、どうぞ皆さま、よいヴァカンスを!」ということで終わります。…そう。それからほんとに1カ月、レギュラー番組がおやすみになるんです;)

法律で年に1カ月のまとまったヴァカンスが保証されているフランスですが、もちろん多くの人は夏にそのうち2-3週だけを使い、あとは他へ回します。それでもヴァカンスのいちばんふかい時期になると、観光地以外、カフェなども閉まってひと気がなくなり、ちょうど日本のお正月のようです。
ただそれが日本よりずっと長い(笑)そしてだれもいなくなった静かな街に、明るい夏の光だけが溢れます。ふだんはけして聞こえないような、遠くの教会の鐘の音も、みんな風に乗って聞こえてくる…ヴァカンス時の夏のパリは、本当に独特の風情がありますね。。。

学生の場合、春の復活祭のヴァカンス明け、5月6月はもう、学年末の試験やレポート、論文の提出…試験で失敗すれば補講や追試など、まさに1年の山場(笑)そしてそこを乗り切れば、どーんと2カ月以上のヴァカンスです;)
大人はもちろんそれよりはうんと短いわけですが、それでも1年間、とくに寒く長い冬の間、とにかく頑張った、そのいわばご褒美のようなかたちで1年の最後に長いヴァカンスがある。上手くいったことも、いかなかったことも、全ては、また来年…。

口では上手くいえませんが、ひとつの短い人生のサイクルが、完全に終わったという感じ。1年の最後の長いヴァカンスは、そのことを非常に強く印象づけるのです。いってみれば、1年のあいだにひとつの生から死へのサイクルがある…そんな、非常にラテン的な感覚です。
今年も、そんな、フランスの1年の終わりです。

リパッティのこのカンタータ、BWV147のコラールの有名な録音。もちろんこれを聴いたのは、僕もパリにきてから、というわけではありません。
でも偶然か、パリにきてから、この夏の、フランスの1年の終わりのこの時期に、ふとFMから、この演奏を耳にすることが多いのです…。

改めて聴いてみますと、それも毎年、この時期にふと耳にしますと、なんともいえず、これほど“1年の終わり”にふさわしい音楽、演奏もないのではないか…という気がします。
1年に、ただ、1回だけ、この夏の、1年の終わりに聴いてみたい。
そういう1曲ではないかという気がするのです;)

生きて行くということは、闘い続けていくことであるのに違いない。どこにいてもそれはおなじでしょう。
しかしその感覚が、日本を遠くはなれ、パリ—この異郷の地にいると本当に、実感としてしみじみ感じられます。

今年も、ここで1年頑張った。今年も、ここで1年闘った。

リパッティの「主よ、人の望みの喜びよ」を聴きながら、天井まである高い窓から、いつまでも暮れていかないような夏のパリの夜の青空を眺めていると、ああ、今年もほんとうにこうして1年が終わっていくんだなぁ。。と、なんともことばにならない思いがいたします。

ディヌ・リパッティ ピアノ・リサイタル〜主よ、人の望みの喜びよ
Dinu Lipatti, Piano Recital, “Jesu, Joy of Man’s Desiring”

…旧サイトのページ「パリで私が見つけたもの」、パリで見つけたこの1枚…。
上にも書いた通り、この録音自体は日本にいる時から知っていました;) でもTumblrページ a perfect day for ginghamcheckに「1年の終わりに聴きたい3枚のディスク」というポストをして、こちらでもご紹介したくなりました:)
さて、a perfect day for ginghamcheck 「1年の終わりに聴きたい3枚のディスク」、あとの2枚は==> ジャズとオルガンでバカラックをジャズ:The Look of Love: A Tribute to Burt Bacharach;「巨匠」バレンボイム、最高の1枚はこのタンゴ・アルバム!?:Mi Buenos Aires Querido – Tangos Among Friends …Tumblr a perfect day for ginghamcheck でどうぞお楽しみ下さい;)


なお、旧サイトのクラシック音楽関連記事としては他にも
ベスト・バイ・ショパン 恋愛用オペラABC 白と黒で2005
が引き続き閲覧可能です。古い原稿になりますが、どうぞご覧下さい;)

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